ロイエド現代パラレル。ロイがエドと同級生だったりロイの一人称が俺だったりロイのキャラが壊れてたりします。大丈夫な方のみどうぞ。
ここに一対の目があるとする。別に生物の授業で出てくるような生々しいやつとかホルマリン漬けのやつとかじゃなくて、デフォルメされたやつでいい。瞼にきちんと覆われたぱっちりしててちょっと吊り目気味な金の睫毛のおめめを思い浮べてください。目の色も金ね。
それからその上にこれまた金の太くも細くもない眉。そんでスッと通った鼻。ちょうど良い大きさ、薄さの唇。卵形の輪郭。そこにちょこんとくっついている耳。つるつるで色白のお肌。後ろで一つにまとめたまっすぐなブロンド。
はい、どんな顔ができましたか。
きれい?ありがとう。
かわいい?ありがとう。まあちょっと複雑な気分ですが嬉しいかぎりです。
しかしながら皆さん、そんなお顔の下はどんな格好だか想像できますか。制服ね。セーラーだとか言った奴、後で体育館裏に来い。
はい、ブレザーです。そう、茶色の。私立だからかなんだかは知りませんがちょっとおしゃれです。少しブリティッシュな感じで胸元にはエンブレム。ネクタイも、ボタンでとめるだけの簡単なやつだけどついてます。
さて、下は?
スカートを想像された方、残念。後で体育館裏に来てください。
正解は、ズボンです。
男、です。れっきとした男なんですよ。
いくら女顔で体が細くて背が……アレでも、オレは、男なんです。付いてるモノは付いてるし胸だってぺったんこで可愛い女の子大好き。一般的なごく普通の男です。
で、何が言いたいかと言うと。
いくら女顔で体が細くて背がアレな人間でも、ズボンの制服を着てれば誰の目にも男に見えますよね、て話。もっと具体的に言うと、そんなれっきとした男の尻を撫でまわす後ろの男は一体、何を考えているんでしょうね、て話。
つまるところオレは今、痴漢なるものの被害を被っている真っ最中、なのです。
学園プリマドンナ
ラッシュ時の電車なんて、誰でも避けたいものだと思う。立ちっぱなしの状態ですし詰めにされて流され押し潰されきっつい香水やくっさい整髪料の臭いを強制的に嗅がされ、痴漢が横行する。
もう嫌だ。自転車で行けばよかった。なんでそうしないかって言われると、まあ、オレが悪いんだけど。
オレが普段通学する道には、いわゆる開かずの踏切がある。そこを八時までに通り過ぎないともう時間内に学校へ到着できる可能性なんてゼロだ。で、すし詰め電車が大嫌いなオレは今までなんとか八時までにそこを通過していたのだが、今日、ついに寝坊。目覚まし時計を止めた時点でオレの電車通学は確定した。
(気持ちわりい……)
誰だか知らない男の手が、オレの尻をさわさわと触ってくる。ゆっくり撫でまわし、割れ目の部分はことさら丁寧に擦り上げる。その異様な丁寧さがキミの仕事にも活かされているものだと信じたいねこの痴漢魔くん。何の仕事やってるかなんて知らないけど。
今までにもこんなことが無かったわけじゃない。自慢じゃないが、電車通学をしていた中学の頃はオレはベテランの被害者だった。変態って結構どこにでもいるものらしい。
(……最悪)
そんなのが嫌で高校は毎朝雨の日も風の日も自転車で頑張ってたのに。ほんと最悪。後ろの変態も、寝坊したオレも、男のくせに尻を触られるオレの腑甲斐なさや運の無さも。
慣れのせいも相まって、別に自分は男だし減りもしないし面倒臭いし、まあいいか、なんて半ば諦めの境地に入っていたオレは、降りるまで我慢しようと判断を下した。あと一駅くらい耐えられない距離ではない。それに、今この状態じゃ動くにも動けないのでもともとあまり選択肢は無かった。
しかし、諦めて電車の外の景色に目を向けた時。
(まじかよ)
男の手の動きがだんだんエスカレートしてきていることに気がついた。はじめは撫でるだけだった男は、オレが抵抗しないのを良いことに調子に乗ってきたみたいだ。尻の肉を、揉むというか、鷲掴みにしてくる。
(うげえ)
窓のガラスに顔を歪めた自分が写った。
朝から本当ついてない。
でもここまではまだよかった。よかった方だと、思う。
突然、尻を撫でまわしていた手の感触が消えた。それにほっとしたのもつかの間、今度はなんと男の手が前にまわってきた。ぎょっとして身をよじる。ここまでされたのは初めてだ。手は音を立てないように注意してか、ゆっくりとベルトを外している。勘弁してくれ!
泣きそうになりながらどうにか男の手を掴んだけれど、どうしてか力が入らなくてそのおぞましい行為をやめさせることができない。ジッパーが下ろされた。嫌だ。怖い。誰か。誰か。誰か。
しかし悲しきかな、オレが必死に抗ってもこんな電車の中で気付いてくれる人なんて誰一人いやしない。そんなだからこんな馬鹿がのさばるんだ!
無遠慮な指が隙間から忍び込んでくる。自分がそんなふうにされる光景なんか見たくなどなくて、絶望に涙の滲む目をぎゅっとつむった。
「、………?」
来ると思った不快感は、いつまで経ってもやってくることは無かった。むしろ半分ほど中に入ってきていた指は、何もすることなく不意にそこから出ていった。
目を開ける。やっとの思いで後ろを向く、と、犯人と思しき男と、その手を掴んでいる誰かがいた。オレはぽかん、と口を開けた。犯人は顔面蒼白で口をぱくぱくさせている。意外と普通の、多分サラリーマン。こういうのが一番危ないんだよ。
そいつを捕まえているオレの命の恩人は、高校生のようだった。制服を着ている。この国じゃちょっと珍しい、真っ黒い髪。白い肌のせいで余計それが綺麗に見える。そして顔のパーツが完璧な、オレのようなタイプとは全く正反対の、エキゾチックな雰囲気を纏った美形、だった。
「…降りるぞ」
「、はっ、え?」
美形はオレの腕をもガッと掴み、怯えている痴漢魔共々ちょうど開いたドアから引きずるようにして外に出した。オレはまだ状況をうまく把握できていない。ここがオレが降りる予定だった駅だということは分かった。
「駅員さん、こいつ、痴漢です。しかもホモ。」
そこらへんにいた駅員にずい、と痴漢魔を押しつけ、美形はそう言った。駅員はさっきのオレみたいにぽかんと口を開けている。そりゃそうだ。いきなりホモの痴漢野郎を押しつけられた駅員さん、可哀相に。ここにいたばっかりに。ついでに痴漢魔も一緒にぽかんとしていて、オレはなんだか笑ってしまった。
「あのな、」
上から声が降ってくる。美形が呆れた顔をして立っていた。
「あんなに大人しくしていて、あの変態が調子に乗ったのも無理はないぞ。抵抗をしろ、抵抗を」
そいつはそう言うと、最後にため息を吐いた。なんか、こいつ案外ムカつく奴かも。
肩をすくめる美形はここらでは見ないデザインの制服を着ていた。オレと同じブレザーだけど、あまり飾り気のないグレーでネクタイもついていない。どこの高校の制服かさっぱり見当がつかなかった。こんな制服の学校、この近くにあっただろうか。
もし、本当はまだ何駅か電車に乗るつもりだったのにあの痴漢を駅員に突き出すためだけにこの駅に降りたのだとしたら、と考えると少し申し訳なくなった。ので、オレは素直に謝ることにした。
「あの、…ごめんなさい。わざわざオレなんかのために」
「ん?ああ、別に謝らなくてもいいよ。こういう時はごめんなさいじゃなくて、ありがとう、だ」
美形はいつの間にかにっこりと笑っている。あああなんかこの人ほんと良い人かも……さっきムカつくとか思ってごめんなさい。やっぱりあなた良い人。
「あ、ありがとう、ございました」
「よろしい」
オレが礼を言うとそいつは更に笑みを深くし、ぐりぐりとオレの頭を撫でてきた。く、悔しい、けど、恩人の手をそう無下にはたきおとすわけにもいかない。不本意ながらも大人しく撫でられてやることにした。
改めてこいつの姿を見てみる。制服はさっき言った通りのシンプルなものだが、妙によく似合っている。美人は何を着ても似合うんだろう。真っ黒いストレートの髪に真っ黒い瞳、落ち着いた雰囲気。そして何より、美形。ほんとに高校生かこいつ。
ぼけっと恩人の顔を見ていると、突然駅員に呼ばれた。事情をきかれるらしい。痴漢魔サラリーマンは逃げる気力も無いようで、大人しく捕まっていた。
「じゃあ、俺はこれで」
「あ、うん…あの、ほんとありがとう」
重ねて礼を言うオレに、恩人はまた微笑んだ。そしてどういたしまして、と言って改札の方へと向いた。見たことのない制服だけど、この駅で降りてよかったんだろうか。よかったんならまあオレの方も気が楽だけど。
と思ったら何かを思い出したようにくるりとこっちに向き直り、恩人がオレの方に再び近づいてきた。
あれ?
「あ、あの」
「一つ言い忘れてた」
恩人は相変わらずにっこり、いや、にんまりと笑っている。オレは思わず後ずさりした。
「君、牛乳を飲んだ方がいい。背が低いと余計女っぽく見えるぞ」
「なっ…」
人が気にしていることを!なんだこいつ。いくら恩人と言えども言っていいことと悪いことがあるだろうが!
「オレは!牛乳が大っ嫌いなんだよ!いちいちそんなこと言いに戻ってきてんじゃねー!」
オレの悲痛な叫びにもこいつはあははと笑っているだけだ。良い人なんて言ったが前言撤回。やっぱりこいつムカつく!
「まあまあそんな怒らなくても。本当のことを言っただけだし」
「あーもーうるさい!もうやだ!死ね!」
「あはは。可愛いね」
「は……っ!?」
ちゅ。
体が硬直した。え、何これ。恩人のにやにや顔がものすごい至近距離に、ある。
「じゃあね、"お嬢ちゃん"」
恩人はそう言って離れると、今度こそ改札の方へと歩いていった。その後ろ姿を目で追う。
ポケットから切符を取り出す。自動改札がそれを飲み込む。人の流れは途切れない。改札はあいつを引き止めることなく、あいつは、向こう側へと……
「ちょっと待てええ!」
今オレはあいつに何をされた?キスだ!
オレの大声にあいつは立ち止まり振り返った。にんまり笑いは相変わらず。美形だと思って油断していた。
「ガード甘過ぎ、"お嬢ちゃん"!」
あいつとんでもない変態だ!
「お嬢ちゃんって言うなー!!」
もうやだ。朝っぱらから本当ついてない。
「あーもう!ムカつく!」
「エド……ちょっとは落ち着けって」
「これが落ち着いていられるか!」
結局駅員に事情を話すのに時間をとられて、俺が駅を出た時にはもう既にあいつの姿は見えなくなってしまっていた。そこらへんを隈無く探してあいつを見つけだしたいくらいの気分だったが、いかんせん学生の朝に余裕など無い。学校に遅刻しないように走るので精一杯だった。
学校には校門の隙間への滑り込みセーフで間に合った。間に合ったけれど、腹の虫はおさまらない。
だって、オレの、オレは、あのキスが初めてだったんだ。ファーストキスが見知らぬ男。冗談じゃない!
「許すまじ…!」
「お前こええよ……」
うつぶせでガタガタと机を揺らすオレの隣でラッセルが呆れている。ラッセルにオレの気持ちなんて分かりゃしない。朝から寝坊して痴漢されてファーストキスを男に奪われて。こいつにオレの怒りと惨めさなんて分かりゃしないんだ。どうせオレは細っちくて女顔ですよーだ。でもせめて初めてくらい、可愛い女の子としたかった。
「先生遅いな。そう言えば今日転校生が来るって聞いたけど」
「…転校生?」
こんな時期に?
「男?女?」
「そこまでは知りません。めちゃくちゃ頭良いらしいけど……ま、学年一位のエドワード君には関係の無い話か」
がばっと机から飛び起きる。転校生。担任が朝のホームルームに遅れていることからして、その転校生がうちのクラスに来る可能性は大だ。
「可愛い女の子来い…!」
「そう願って来るわけないだろ…」
来てください女の子来てください今のオレのこのささくれだって傷ついたブロークンハートを癒してくれるそんな女の子来い…!
ラッセルが呆れかえって黒板の方を向いてしまった中で必死に祈る。ホームルームの始まりを知らせるチャイムは既に鳴っていた。
「おはよー」
担任が気の抜けた挨拶をしながら教室に入ってきた。長身で金髪の教師は今日も煙草の匂いをさせている。オレ以外にも転校生の噂を聞いたらしい奴らが、担任が入ってきたあとの開きっぱなしのドアの方へと視線を向けていた。
「みんなもう知ってるかも知れんがー、このクラスに転校生が来る」
一斉にざわめきが大きくなった。
「おーい、入ってこい」
オレは期待を隠しきれずに机から身を乗り出すようにして転校生が入ってくるのを待つ。
女子が一気に色めきだった。背が結構高い、色が白くて、黒髪ストレートでグレーのブレザーを着た美形の……
「………え、」
女子は黄色い声を上げている。男子はあからさまに落胆している。オレは、言葉が出なかった。
「えー、今日からみんなと一緒に学ぶことになる、ロイ・マスタング君だ」
にこり、と一見人当たりの良さそうな笑みを浮かべて立っているのは、オレのファーストキスを奪いやがった、憎たらしいあいつ、だった。
「なんだ、男じゃん。残念だったなエド」
ラッセルがぽんぽんと肩を叩いてそう言ってくるのにも返事ができない。開いた口が塞がらないってまさにこういう感じかな。いや塞がりませんマジで。
「ロイ・マスタングです。よろしくお願いします」
女子の耳をつんざくような歓声はもうほとんど悲鳴にしか聞こえない。こっちはよろしくしたくないっての。
女顔。細っちい。寝坊した。痴漢された。キスされた。これ以上なく運が無いと思っていた今日も、まだまだ下があったらしい。オレ、何か悪いことしましたか。
口を中途半端に開いて自分の不運を嘆いていると、ロイ・マスタングとやらとばっちり目が合ってしまった。あ、と相手が声を洩らして口角を上げる。気付かれた。慌てて下を向いても時すでに遅し。
「ヘロー、"お嬢ちゃん"」
明らかにオレの方を向いてあいつはそう言いはなった。
「…オレはお嬢ちゃんじゃねー!!」
女子の悲鳴が止まった。担任は垂れている目を見開いている。ロイ・マスタングだけが、オレの叫びを聞いてあははと笑っていた。
「…なんか知らんがおまえらさっそく仲いいなあ。じゃ、マスタングの席はエルリックの隣な。あそこだ」
「はい」
「………!」
恨むぜ先生…!
見たくもない顔が近づいてくる。見慣れない制服を着ていたこともオレと同じ駅で降りたのも、これで納得がいった。だからと言って今この状況をどうにかしてくれるものにはならない。ガタ、と椅子をひいて、オレの隣に憎たらしい顔が座った。
「よろしく」
「………」
にっこり、話しかけてくる。しかしオレは知っている。その笑顔は偽りだ。その微笑みで人を引き寄せ安心させておいてから不意打ちをかける。こいつは危険だ。
「無視するなよ、"お嬢ちゃん"」
…そして、こいつは、変態だ!
あああもう、泣きたい気分。誰か助けて。
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