いぬろい。



俺、エドワード・エルリックが上司であるロイ・マスタングと付き合うようになってから、もうそろそろ一年が経つ。

大佐と付き合うようになって分かったことがいくつかある。

まず一つめに、大佐は俺が思ってたよりもずっと、俺たちのことを考えて、守ってきてくれてたってこと。
気づいてなかった。あんなに優しい目で見られてたのかと、執務室で時折感じる視線に顔を上げる度に知る。
そして俺はどんな顔をしていいのか分からずに思わずへにゃっと変な顔をして、それを見た大佐がそりゃもう蕩けるくらいに優しい笑みを浮かべるんだ。なんだよあれ。地上最強の兵器だよ。あれを見てときめかない人間がいたなら、俺はぜひにそいつにお目にかかりたい。

二つめに、大佐は仕事はできるが家の中では驚くほどに駄目人間だってこと。
特に料理は壊滅的だ。一度大佐の作ったポトフを食べてみたが、二口と食べられない代物だった。何をどうしたらあんなにまずくなるのか逆に聞いてみたいところだったけど、本人も気にしてるみたいなのでやめておいた。代わりに簡単な夕食を用意してやると、思っていた以上に喜んでもらえた。本当においしそうに食べるから、また俺はへにゃっと変な顔をしてしまった。


そして三つ目。これが一番、意外だった。びっくりした。

今日の夕食のために、鍋の底が焦げないようゆっくりかきまぜているとキッチンへ入ってくる気配を感じた。もう出入り口の方を見なくたって分かる。
「エドワード」
ほら来た。
すぐに背後から腕がにゅっと現れて、腰に絡みつく。俺はくつくつと泡を立てる鍋をかきまぜるのもそこそこに、首をひねって後ろを向いた。
「どした? 大佐」
「んー……あとどれくらいだ?」
「えーと、あとはシチューだけだから五分くらいかな」
そう言うと、こつん、と肩に大佐の頭が乗る。すりすりと擦り寄られて大佐の真っ黒な髪が頬を撫でるから、くすぐったくて小さく笑った。
「な、大佐、そこのサラダ向こうに持ってってよ。あとパンも」
「ん」
そう返事を寄越しながらもなおも腕は俺の腰に絡みついていて、黒の髪の毛が頬や首筋をくすぐる。
最後に目尻に軽いキスを落として、大佐はやっと腕を外した。トレイに乗ったサラダとコップを持って出ていくのを確認して、俺は赤くなった頬を早く冷まそうとこっそり右手で顔を覆った。

大佐と付き合うようになって分かったこと、三つめ。それは、大佐は実はびっくりするほどに寂しがり屋で、スキンシップが大好きで、甘えただってこと。



いつも通りに俺が夕食を作って、いつも通りに大佐は幸せそうな顔でそれを食べてくれて、いつも通りにそれを見た俺は情けなくへにゃっと顔を崩して、そんでもう今は食べ終わってリビングでごろごろしていた。俺はソファで寝転がって本を読んで、大佐は俺の乗ったソファにもたれかかるように座って何かの雑誌を読んでいる。
しばらくそんなふうに俺たちは無言で過ごしていたが、大佐は俺より先に雑誌を読み終わってしまったみたいだ。薄い雑誌をテーブルに置いて、そわそわと落ち着かない様子でこっちを見たり、かと思ったら目を逸らしたり。俺にかまってもらいたいオーラを惜しげも無く放っている。
今読んでいる本はキリの良いところまで読んでしまいたかったから「もうちょっと待っててな」と柔らかい髪の毛を撫でると、大佐は従順な犬のようにおとなしくなった。だけどけなげにじっと待っている大佐に逆にこっちがそわそわしてしまって、本の内容になかなか集中できない。
俺は諦めて本に栞を挟み、それから寝転がっていたソファから身を起こした。
「ん、おいで」
両手を広げて、待て状態を解除する。大佐はそりゃもう嬉しそうに微笑んで、ぎゅっと腰に抱きついてきた。犬のように耳や尻尾があったら、耳はぴんと立って尻尾は勢い良く左右に揺れてるんだろう。
そのまま大佐はソファに乗り上げ、俺の隣に座るとすっぽり覆い被さるように抱き締めてきた。
「かわいいなあ、エド、かわいい……」
とろとろに蕩けた声で俺を抱き締めている大人はそう囁く。いやいや、あんたの方がかわいいよ。
ぎゅーっと抱きついたり、すりすり頬を寄せてきたり、指を絡めたり。そんなことをにこにこと笑いながらやってる大佐は、おっさんのくせに心臓がきゅんと変な音をたてるくらいにかわいい。いつもはあんなにてきぱき仕事やって格好良くて「できる大人」な大佐がこんなふうに甘えてくるなんてギャップが、俺の母性本能をこれでもかとくすぐってくるんだ。
そっと寄せられた唇をあむ、と甘噛みすると大佐が笑って振動が伝わってくる。顔の角度を変えて何度も唇を合わせて、舌も絡めて、瞼や鼻の頭にもキスしたり、されたり。
そんなふうにお互いに触り合ってると、自然と体の熱が上がってくる。至近距離で見つめる大佐の目も、なんだか愛情とか欲情とかそんなもので濡れているような気がした。耳を舐められて小さく声を上げると、腰に回された腕の力が強くなる。
「エド」
吐息交じりに俺を呼ぶ声が愛しくてたまらない。返事をする代わりに目の前の首に腕を回すと、背と膝裏に腕が差し込まれてそのまま抱きあげられた。
「このまま、いいかな」
別にこんなことにまでおあずけ喰らわせた記憶は無いんだけど、そうやってわざわざ俺に伺いを立てる。返事なんて決まってる。
「いいよ」
そう囁いて強く抱きつくと、ぐっと大佐が腕に力を込めて俺を引き寄せた。



シャツもズボンも下着も取っ払って、裸の肌を合わせる。まだ汗をかいていない、さらりと滑る感触が心地よかった。
大佐はまず唇にキスを落として、それから額、頬、目尻と、順々にそれを繰り返す。俺の耳に中途半端にかかっていた髪を優しく払い、あらわになった耳にもキスが降ってくる。耳介の内側を舐められて思わず息を詰めると、大佐がくすりと笑った。
暗がりの中で見上げた大佐はとても綺麗だった。男に綺麗だなんて、おかしいのかもしれないけど、他に良い言葉が浮かばないんだからしかたがない。艶やかな黒髪と、月の薄明りを反射する白い肌。見上げる俺に気づいたらしく、長い睫毛に縁取られた目がそっと細められた。
「エド」
首筋に息がかかる。大佐がそこに顔を寄せて、囁いたからだ。べろりと舐めあげられて、ぞくぞくと何かが背筋を伝い上がる。そのままきつく吸いつかれて声が跳ねた。
「あっ、大佐……っ」
「エド……かわいいね」
大きな手が脇腹をゆっくりと撫で、這い上がってくる。胸の突起を押し潰したり摘まんだりする指に跳ねる声と息が止まらない。たまらずに大佐の頭を掻き抱けばまた首筋の皮膚がきつく吸われて、背中が僅かに反った。
胸をいじる手とは反対の手が俺の太ももを撫で始めるから、自分から脚を開いて誘う。大佐はそんな俺を焦らすかのように触れるか触れないかのぎりぎりで太ももに手を這わせ、快感のようなくすぐったさのようなじれったい感覚が俺を襲う。腰を揺らしても一番触ってほしいところに手が触れることはなく、首筋や鎖骨のあたりと胸、そして太ももへの愛撫が繰り返されるだけだ。
いつも俺にかまってほしがって甘える大佐は、こんな時ばかりは少し意地悪だ。
俺はもう我慢できなくて、切羽詰まった声で意地悪な大人に縋った。
「大佐っ、触れ、よ……っ」
掠れた声で、上擦った声で呼ぶ。そうしてやっと、脚の付け根あたりをさまよっていた手は俺の中心に触れた。
「ぁ、あ……っ!んぁ、」
熱い手のひらは既に勃ち上がり始めていた俺の熱を包み込み、ゆっくりと上下に動く。先走りの露が零れてその指に絡まり、くちゅ、と小さな水音をたてた。
いつの間にか胸のあたりに大佐の頭は移動していて、硬く熟れた突起がねっとりと舐められる。くちゅくちゅと扱かれる中心からの快感も相まって、俺はさらに高い声を上げて喘いだ。
俺の熱が充分な硬度を持って勃ち上がった頃に、茎を扱く指の動きが止まった。不思議に思って黒髪のつむじを見下ろすと、大佐は脚の間に顔がくるような位置に体をずらす。そして、あたたかく柔らかいものに、俺の勃起したモノが包まれた。
「っあ、あ!ふ、ぁああ、ん……っ!」
大佐が俺のを咥えている。ぽってりとした舌が括れの部分を舐め、唇が茎を強く締め付けた。根元には指が添えられ、さっきと同じように扱いてくる。俺は枕に頭を擦りつけながらその快楽を享受した。
「ん、ぅ、あ、ぁあ……っ」
大きく開いた脚の間を見下ろすと、黒髪が上下にスライドして卑猥な水音を立てている。大佐が頭を上げる度に現れる俺の性器は、大佐の唾液と自身の先走りが混じって垂れてぬらぬらと濡れていた。自分でもやばいと思うくらいに興奮する。
ちろりと上を見上げた大佐と目が合った瞬間、俺の興奮は最高潮に達した。
「あぁっ、う、んぁ、ああぁ…ぁ…っ!」
唇で激しく扱かれて、白濁した熱を大佐に思い切り叩きつけた。びゅ、びゅ、と何度かに分かれて吐き出すそれを、大佐は零すことなく全て咥内に収めていった。
「、ん……」
こく、と聞こえた小さな音で、大佐が俺の吐き出した精液を飲んだのだと分かった。大佐の吐いた熱い溜息が俺の性器にかかったと思えば、すぐにまた赤い舌がそこに這い始めた。濡れそぼったモノに舌が絡みつき、唾液やら先走りやらが混じった液体を舐め取り、唇が緩く吸いついてくる。そうやって優しく愛撫される様を、快感の涙が滲んだ目でじっと見下ろしていた。
しばらくそうやっていた大佐は最後に仕上げとばかりに先端にキスを落とすと、体を起こしてナイトテーブルに手を伸ばした。そこからローションを取り出して、俺の尻に垂らす。ひんやりとした冷たい感触はすぐに内をかき回し始めた指に消された。指が抜き差しされる度に潤滑剤がにちにちと湿っぽい音を立てるから、聴覚からも犯されているような感覚を覚えてしまう。
中指の次は、人差し指。そして、薬指も。次々と増えていく指は俺を圧迫したけど、それもすぐに慣らされ奥まで呑み込むようになる。ぷくりと膨らんだしこりを指で引っ掻かれれば、堪えきれずに大きな嬌声が喉から吐き出された。
中をかき回す指に内壁が絡みつくようになったころ、大佐は指を引き抜いて代わりに自身の性器を孔にひたりと当てた。大きく怒張したそれを早く取り込もうと、俺の意思なんて関係無しに入口がひくひくとひくつく。その度に大佐の熱の先端にキスが繰り返されて微かに濡れた音が響いた。
「エド……いいかな」
吐息交じりの艶っぽい声で、承諾を求めてくる。大佐は『待て』の命令に従順に従う犬のようにひたむきにじっと俺を見つめている。俺はこくりと首を縦に振って、自分から大佐の首に腕を回した。
「んぅ、あ……ぁ、あっ……」
ぐ、と入口を広げながら、徐々に大佐が内に入ってくる。潤滑剤まみれになっているそこは痛みこそ感じないけれど、圧倒的な圧迫感が俺を襲った。
「うぁ……っ」
「は、ぁ……エド、大丈夫か……?」
全てが収まると、大佐は汗の浮いた額に貼りついている前髪をゆっくり払いながら俺の顔を覗き込んできた。
胎内に、自分ではないものを咥え込み、包み込んでいる。この感覚はいつになっても俺に不思議な感動を与える。
ん、と顎を引くと、緩やかに抽送が始まった。ぎりぎりまで引き抜かれ、それからまたじりじりと押し込んでくる。大佐がキスしたそうに額や瞼を舐めるから、少し無理して首を逸らして、唇を合わせた。
「エド……エド、気持ち良い……?」
ゆるゆると腰を動かしながら、大佐が俺を見つめる。漆黒の目には俺を気持ちよくさせたいとか、痛い思いをさせたくないとか、そんな愛情がいっぱいに詰まっていて煌めいているように見えた。こんな目、他の誰にも見せたくない。子どもじみた独占欲が俺の中で生まれてしまうくらい、その目は綺麗だと思った。
「ん、気持ち、い……ぁ、ロイ……っ」
きつく抱きついて求める。内股に力を込めてぎゅっと腰を挟みこめば、内を擦る熱がさらに大きくなった。
だんだんと抽送は激しくなっていって、俺の喉からはひっきりなしに高い嬌声が吐き出される。こんなの恥ずかしくて呑み込んでしまいたいんだけど、声を出さないと身体の中で熱が溜まってどうにかなってしまいそうだった。
「あっ、は、あっあぁあ……!」
大佐が俺の内のイイところをぐり、と掠めた瞬間、それまでぎりぎりで耐えていたものがついに決壊した。本日二度目の射精だというのに奔流の勢いは衰えることなく、散々腹で擦られた中心から勢いよく熱が吐き出される。
ぎゅっと締め付けられた大佐は僅かに呻き声を漏らして、俺が達してから数回抜き差ししたところで内に吐き出した。じんわりと下腹部に感じる熱に喘ぐように微かに喉を揺らすと、汗ばんだ額から頬にかけて撫でられた。
「、あ……っ」
ゆっくりと、俺をかき回していた性器が引き抜かれる。肉と肉が擦れ合う感触にいまさらながらぞくぞくする。やがて全てが出ていくと、すぐに唇が塞がれた。何度も何度も、小鳥が啄ばむような慈しみに満ちた優しいキスが贈られて胸がいっぱいになる。
「エド、エド……好きだよ、エド……」
切なく俺を呼ぶ声に、俺の中にあるこいつへの愛情が溢れだす。底なんてないみたいに次から次へと、止まらない。美しい稜線を描く背に腕を回すと、俺の背にも腕が差し込まれきつく抱き締められた。

きっと俺たちはお互いに溺れてる。そう確信できる。背を撫でながら大佐の目を見つめると、ふっと柔らかく微笑まれた。

泣きたくなるくらいにあたたかい愛情の海に、二人して浮かんでいる。



End.